棚卸しとは?目的や作業手順、起こりやすいミスについて紹介

商品の販売を行う多くの企業では、定期的に商品の在庫をチェックする「棚卸し」が行われます。とはいえ、その正確な目的をよく理解しないまま行われていたり、作業手順があいまいになっていたりすることも少なくないようです。

棚卸しは、企業の利益を正確に把握するために必要不可欠な作業です。
そこで今回は、棚卸しの目的や作業手順、起こりやすいミスなどについて解説します。

棚卸しとは

棚卸しとは、倉庫内に在庫がどれくらい残っているのか数量を調べる作業を指します。
また、在庫数を調査するだけでなく、商品の品質を評価して価値を算出する「資産評価」も棚卸しの大きな目的の一つです。大小問わず小売りの実店舗では昔から行われている作業であり、近年活況を見せるECサイトにおいても、在庫を備蓄する倉庫などでこの棚卸しが定期的に行われています。

棚卸しをする目的とは

定期的に棚卸しを行う目的は、主に次の2点です。

正確な利益を計算するため

企業は財務経理の管理において、また健全な企業運営のため、売上総額や純利益など取引上の成果を正確に計算する必要があります。棚卸しはそのために欠かせない作業です。

通常、商品の売上総利益は在庫も含めて計算するのが一般的です。たとえばある商品を1個500円で50個仕入れて1個700円で売ったとき、50個すべて売り切れると売上総利益は(700-500)円×50個=10,000円となります。しかし、実際には商品が在庫として残っている場合も考えられます。

同じ条件で在庫が20個残っているときの売上総利益は、21,000円(売上総額)-(25,000円(仕入総額)-10,000円(在庫))=6,000円です。

上記のように、在庫量によって実際の利益は大きく変動するため、自社の正確な資産状況を知るためにも棚卸しは重要な作業になります。

適切な在庫管理をするため

棚卸しのもう一つの目的は、帳簿に記載されている在庫と実際の在庫にどれくらいの差異があるのか確かめることです。調査した在庫数量が帳簿上の在庫数量と異なっていれば、修正を行わなければなりません。

在庫管理は今も多くの企業で手書きやExcelなどを利用して人の手で行われているケースが多く、入力ミスや記入漏れなどが発生することは避けられません。そのため、定期的な棚卸しで正確な在庫数量を確認し、誤りがあれば修正するという作業が必要になります。

また棚卸しを実施すると、仕入れたものの売れ行きが悪かったり未使用のままになっていたりする「滞留在庫」や人気がなく倉庫に眠ったままになっている「不良在庫」などが洗い出せるため、商品の動きの良し悪しを把握できるメリットもあります。

販売機会の損失を防ぐため

適切な在庫管理ができていないと販売機会を損失する可能性があります。抱えている在庫が長期の保管により劣化していた場合、「受注したにも関わらず発送できる状態の商品がない」といったトラブルが発生することも。
棚卸を行う際には在庫の品質状況も確認する必要があります。

帳簿とのすり合わせ在庫管理を見直すため

決済期末に実地棚卸しを行う際、帳簿とすり合わせをすることとなります。
帳簿と実際の在庫数が違っている場合、その原因を追求し改善する必要があります。帳簿とすり合わせることによって、日々の在庫管理を見直すことができます。

棚卸しの時期と頻度

棚卸しは一般的に、「期首」と呼ばれる年度初めと、「期末」と呼ばれる年度末に行われます。期首の棚卸しで在庫の状況をひと通り把握し、期末に期首の棚卸しの結果と比較することで、より正確に利益を計算しやすくなるためです。

棚卸しの頻度は、少なくとも年1回以上行うことをおすすめします。より正確に在庫を管理するため、企業によっては半期や四半期ごとに棚卸しを行う場合もあります。こまめに棚卸しを行うことで、帳簿の在庫と実在庫のずれが大きくなるのを防ぐことができます。

棚卸しの手順

棚卸しの手順には、「リスト方式」と「タグ方式」の2種類があります。それぞれどのようなメリットやデメリットがあるのか紹介します。

リスト方式

リスト方式は、倉庫にある商品などの棚卸資産を目視で数えながら、在庫管理表などリスト上の数量と差異がないか比較する方法です。リストに記載されている数量を確認してから現物の数量を調べることで作業時間を圧縮できるメリットがあります。

ただし、あらかじめ用意したリストが誤っているとカウント漏れにつながるというデメリットもあります。現物は存在しているにも関わらずリスト上に表記がないなどのミスが起こる可能性もあるので、チェックしていない現物がないかどうかも確かめる必要があります。

タグ方式

タグ方式は、倉庫にある商品の名前と数量を担当者が一つずつ確認し、情報を記載した荷札を現物に貼り付けることで現物の数量を把握する方法です。

先に現物の数量を数えてからリストなどの理論値と比較するので、リストへの記載が漏れていたなどの理由で計上漏れが発生する可能性が低いのがメリットです。ただし、荷札への記入が必要であるため工数がかかるというデメリットもあります。

棚卸し在庫の評価の仕方

棚卸し在庫の評価方法には、「原価法」と「低価法」の2種類があります。
ここでは、それぞれの評価方法について解説します。

原価法での評価

原価法とは、棚卸し資産を取得したときの原価を基準に評価を行う方法です。
取得価額を計算するための方法は下記の6種類があります。

  • 個別法
  • 先入先出法
  • 総平均法
  • 売価還元法
  • 移動平均法
  • 最終仕入原価法

個別法とは、それぞれの在庫の仕入れ時価格から評価する方法です。
先入先出法は、期末から一番近い時期に仕入れたものから払い出しを行うものと仮定して原価を算定します。
総平均法は、期首時点の取得価額と、期中に新たに仕入れた在庫の取得価額の総額を加算して、資産の総数で割り返すことで求められます。
売価還元法は、種別が似通った商品を一つのグループとし、期末時点の総販売額に対して原価率を乗じて計算する方法です。
移動平均法では、仕入れのたびに現時点の在庫状況に応じて棚卸し資産を再計算して評価します。最終仕入原価法は、期末に最も近い仕入金額を取得金額とみなして評価を行います。

低価法での評価

低価法とは、前述の原価法によって算定した評価額と期末時点の時価を比較し、低いほうの金額を活用して評価を行う手法です。時価の変動が激しい場合、それに伴う自社への影響を正確に把握しやすくなる点がメリットです。

なお、低価法を利用して評価を行う場合は、次年度の期首に「振り戻し」を行う必要があります。

棚卸しで起こりやすいミスとは

棚卸しは「現場で在庫の数を数え、結果を事務所でパソコンなどに入力して集計する」という単純な作業ではありますが、それぞれの工程で起こりやすいミスはあります。数量を数えるときに起こりやすいミスには次のようなものが挙げられます。

  • カウント漏れ
    在庫の存在に気付かず実際の数より少なくカウントしまうミスです。棚の奥など見通しの悪い場所に在庫が置かれている場合に起こりやすくなります。
  • 数え間違い
    数量が多いものなどを数え間違うミスです。集中力が途切れたタイミングで起こりやすいので注意しましょう。外箱などに記載されている数量をそのまま転記したところ、実際は中身の個数が異なっていたというケースもよくあります。
  • 記入ミス
    商品番号やロケーションを転記する際に誤って記入するといったミスです。
  • 商品間違い
    特徴が似ている商品でよく起こります。見た目はほとんど同じでありながら素材が異なっているなど、見分けにくい商品がある場合には注意が必要です。

また、事務所で集計する際に起こりやすいミスには次のようなものがあります。

  • 入力漏れ
    収集したデータを入力し忘れたり、本来とは異なる数量が登録されてしまうミスです。
  • 数字や記号の読み間違い
    0と6など、記入されている数字や記号を読み間違うことで起きるミスです。手書きの場合に特によく起こります。

棚卸しをする際注意すること

棚卸しをする際注意すること

人的なミス以外にも、棚卸しには注意すべきポイントがあります。以下に2つ紹介します。

「棚卸し表」は7年間保存しなければならない

企業は棚卸しの結果を「棚卸し表」に記載し、棚卸しの実施日から最低7年間保存しなければならないと国税庁により定められています。誤って紛失したり破棄したりしないように、一箇所にまとめて保管しておくといいでしょう。担当者が変わるタイミングで所在を伝えるのを忘れないようにすることも大切です。

なお、平成30年4月1日以降のいずれかの事業年度内に欠損金が生じた場合、該当する年度については7年間ではなく10年間保存する必要があるので注意が必要です。

数だけでなく品質も確認する

数量の確認だけでなく、在庫の品質状態を確認するのも棚卸しの業務の一つです。在庫の状態をしっかりと見極め、破損や状態不良などの異常を発見した場合は担当者に忘れずに報告しましょう。

棚卸しで商品として販売できないと評価された商品は、経理上「損金」として処理できます。今後販売するのが難しい季節性の商品や型落ち品なども、状況に応じて「損金」に含められる場合もあります。

棚卸しを効率化するためのポイント

日々の検品作業を入念に行う

帳簿棚卸しを行っている場合、帳簿のデータで在庫数を管理することとなります。実地棚卸しが出来ないのであれば、日々の検品作業を丁寧に行うことでミスを防ぐ必要があります。ミスの多い入出荷や返品業務でのダブルチェックなどを心がけていく必要があります。

在庫管理システムの導入

バーコードやQRコードを利用した在庫管理システムを利用することで人間によるミスを減らすことができます。

Excelなどで記入・管理している場合、記入間違いやデータの保存、関数のミスなど様々なミスが起こる可能性があります。それらを一元的に管理できる在庫管理システムを導入することで、ミスの減少・業務の効率化を図ることができます。

棚卸しをアウトソーシングするメリットとは?

作業が煩雑になりがちで間違いのリスクも多い棚卸し。最近は、その作業を外部に委託するケースも増えています。

棚卸しをアウトソーシングすると、まず作業にあたるスタッフの人件費を削減できます。棚卸しは大がかりになる場合が多く、店舗総出で実施したり、状況によっては棚卸しに不慣れな他部署のスタッフの手も借りなければいけない場合もあります。そうして参加する人数が増えれば増えるほど人件費は増大し、ミスが起こるリスクも高くなっていきます。

しかし、アウトソーシングをすればプロのノウハウを持ったスタッフが効率よく正確な作業を行うので、スピード感がありながら精度の高い棚卸しを実現でき、結果的にコストの削減につながります。

また、社内のスタッフが棚卸しから解放されることで本来の業務に集中できるというメリットもあります。

まとめ

ここまで、棚卸しの目的や作業手順、起こりやすいミスや注意すべき点などについて紹介してきました。

棚卸しは自社の利益や在庫を知り、今後の販売戦略を立てる上で重要な作業です。なるべく正確に実施し、正しいデータを取得することが大切となります。とはいえ、棚卸しにおけるミスは決して珍しいものではありませんし、コストのかかる作業でもあることも事実です。

効率的な棚卸しを行いたいのであれば、その実現の手段の一つとして、プロのノウハウを活かし対応してくれるアウトソーシングの活用も検討してみてはいかがでしょうか。

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