近年、物流倉庫の概念や役割が変わりつつあることをご存じでしょうか。多くの物流会社が物流倉庫の有効な活用に向けた取り組みを始めており、新しいサービスが広がりを見せています。
そこで今回は、物流倉庫の役割や種類、活用のメリットなどについて詳しく解説します。
物流倉庫とは、商品が製造されてから消費者に購入されるまでのプロセスの中で「仕分け」と「配送」を管轄する施設のことを指しています。
従来は単に「注文があるまで商品を保管しておくためのスペース」を指す言葉でしたが、物流倉庫のシステム化が進んだことにより、効率的な在庫管理や梱包・出荷、流通加工、配送業務など、多様な業務を行う場所へと変貌し始めています。
物流業者が運営する物流倉庫が登場する以前は、それぞれの会社が自社の物流倉庫を保有し商品の保管・出荷・配送業務をおこなうことが当たり前でした。
しかし、自社で物流倉庫を所有すると倉庫の保管スペースを維持するための費用だけでなく、品質維持のための光熱費や現場で働く従業員に支払う人件費など、さまざまなコストがかかります。また、倉庫のセキュリティ対策も必要なことから、自社物流の運用には大きな負担が伴うという課題がありました。
しかし、クライアントの荷物を預かり物流業務を一手に引き受ける物流倉庫が誕生したことによって、これまで自社物流をせざるを得なかった各企業は物流体制の構築にかかるコストを大幅に削減し、物流業務にかかる手間も省力化できるようになったのです。
システム化された物流倉庫は今や企業の物流にかかる手間やコストなどの負担を軽減し、物流を円滑に行うために不可欠な存在となっています。
ひと口に物流倉庫といっても、その種類はさまざまです。ここでは物流倉庫の主な種類とその役割について解説します。
在庫を保管せずに中継地点としての役割を果たす倉庫のことです。「クロスドッキング」とも呼ばれる積み替えや仕分けのために活用される倉庫で、在庫保管が必要ないことから倉庫の面積を小さくでき、賃料などのコストを圧縮しやすいというメリットがあります。
トランスファーセンターで複数拠点の商品を配送先別に仕分けることによって、配送の効率化を図ることができます。
倉庫にあらかじめ在庫を保管しておき、納品先の消費者や小売店などにスムーズに商品を届ける目的で利用される倉庫です。
物流倉庫内に保管してある在庫を出荷指示に沿って各配送先に仕分け、目的地へと次々と出荷していきます。
ディストリビューションセンターは、小売業や製造業、卸売業などで広く使われています。物流倉庫内に在庫を所有しているため、急な注文にも対応しやすいのがメリットです。
ディストリビューションセンターに流通加工の機能を付加した物流倉庫です。
在庫をストックしておくディストリビューションセンターの機能に加え、家具・家電の組み立てや生鮮食品の加工作業など、専門的な流通加工が可能です。ディストリビューションセンターに比べるとコストはかかりますが、複雑性の高い流通加工サービスを提供できることから、オリジナリティの高い物流サービスを提供できるという魅力があります。
近年EC事業が活発化したことによって生まれた比較的新しい倉庫形態の一つです。EC事業者の通信販売をサポートするための物流倉庫であり、BtoCで顧客から注文を受けた商品をピッキングし、流通加工や梱包作業を行って出荷までの処理を完了させるのがその役割です。
フルフィルメントセンターのメリットは、商品が倉庫に入荷してから注文者の手に渡るまでの一連のプロセスを物流倉庫内で一気通貫で行える点にあります。受注確認や発送業務などの一般的な物流業務のほか、コールセンターや返品処理などの付帯業務を委託できるケースが多く、EC事業者にとって使いやすい物流倉庫です。
物流倉庫での主な業務には、入庫、検品、保管、ピッキング、流通加工、梱包、出荷、配送などが挙げられます。
入庫・検品とは、倉庫に届いた荷物の内容や数量が正しいかどうか、初期不良がないかどうかなどを確かめる作業です。入庫・検品が終わると、注文があるまで商品を倉庫内で保管します。
ピッキングは、注文が入った商品を注文書の内容に沿って倉庫内の保管場所から取り出す作業です。ピッキング後に組み立てやラッピングなど何らかの加工作業が必要な場合は「流通加工」の工程が入りますが、特に必要がない場合はそのまま梱包されて出荷場へと運ばれ、配送用のトラックに乗せられてお客様のもとへと届けられます。
物流倉庫を活用すると、リソースの削減やコスト削減といったメリットを得ることができます。それぞれのメリットについて詳しく解説します。
物流倉庫を利用するメリットの一つは、自社の物流業務のリソースを削減できることです。
自社物流を維持するためには現場で働く多くの作業員を確保する必要があり、これが企業にとって大きな負担となっていました。特に近年は物流需要が高まる一方、労働力不足によって物流に従事する作業員の確保が難しくなっている事情もあり、企業の負担はさらに増しています。しかし、物流倉庫を活用すれば物流倉庫側の作業員が物流業務を代行するため、自社でリソースを確保する必要がなくなります。
2つ目のメリットは、コストの削減が図れることです。前述の通り、自社物流を構築・維持するためには膨大なコストがかかります。また、繁忙期には多くのリソースが必要になりますが、繁忙期に合わせて大量のリソースを確保すると閑散期に人件費の余剰コストが発生するという問題もあります。かといって閑散期に合わせ少数のリソースに留めておくと、繁忙期に必要なリソースを確保できないという問題が生じるでしょう。
しかし物流倉庫を活用すれば、時期に応じて必要なリソースを柔軟に調整できるため、コストの最適化が可能となります。
物流倉庫の活用にはさまざまなメリットがある一方で、ノウハウの蓄積が難しい点やタイムラグの発生がデメリットとして挙げられます。
物流倉庫を活用するとさまざまな効率化やコストの削減が見込める一方、将来的に自社物流の運用を考える際のためのノウハウが蓄積できないというデメリットがあります。恒久的に物流会社への委託を検討しているのであれば問題ありませんが、事業規模の拡大に合わせて自社物流を構築したい意向があるならば、規模が小さいうちから自社物流を運用するための経験値を積んでおく必要があります。
自社の荷物を動かすために物流会社と連携をとる必要があり、自社物流に比べるとタイムラグが発生しやすいこともデメリットの一つといえます。しかし、この点はインターネットが発達してクラウドサービスが提供されるようになってきたことでリアルタイム性が高くなったため改善されつつあります。
ここまで、物流倉庫の役割や種類、活用のメリットについて解説してきました。従来は自社物流を所有するしか選択肢がなく、企業に大きな負担がかかっていた物流業務ですが、物流サービスを提供する事業者が登場したことによって負担の軽減を図れるようになってきています。
物流の委託は、工程のすべてを任せることも、また一部のみを委託することもできます。自社に必要なサポートはどれなのかを十分に検討したうえで、無駄なく物流サービスを利用しましょう。