ホテルの人材不足が叫ばれる背景と原因・人材不足を解消する方法
コロナ禍を経て人材不足が顕著となった産業の一つにホテル業界が挙げられます。昨今のインバウンド需要の増加により多くのホテル・旅館がコロナ前の水準まで業績を回復するなか、コロナ禍に流出した労働力を取り戻せず、人材不足に苦しんでいる実情もあります。
この記事では、ホテル業界を取り巻く人材不足の背景とその理由、対応策について解説します。人手が足りず旺盛な需要に対応し切れない、従業員の業務負担が大きいなどとお悩みのホテル業界の採用担当者様はぜひ参考にしてください。
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正社員・非正社員とも人材不足の割合が高いホテル業界
ホテル業界は、日本において最も人材不足が叫ばれる産業の一つです。帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2023年7月)」によると、正社員の人手不足割合は72.6%、非正規社員の場合は68.1%と、いずれも全産業のなかで2位となっています。コロナ禍初期の2021年時点では、正社員の人手不足割合は22.5%、非正規社員は39.5%でしたので、コロナ以降の需要回復に対して人材が不足していることが読み取れます。
では、ホテル業界はなぜこのような深刻な人材不足に陥ってしまったのでしょうか。その背景を詳しくみていきましょう。
ホテル業界の人材不足が深刻化した背景
ホテル業界の人材不足が深刻化した背景には、主に以下の3つが挙げられます。それぞれ詳しくみていきましょう。
ホテルの開業数が増加
人材不足の1つ目の理由は、ホテルの開業数が増加していることです。
ホテルという業態は、計画から実際の開業までに年単位のリードタイムがあり、「引き合いが見込まれるからすぐに準備し需要を刈り取ろう」というアクションは現実的ではありません。また、もし建設途中でホテルの出店をキャンセルしてしまったら、大幅な赤字を抱え込むことになってしまいます。
2020年の東京オリンピック(実際の開催は2021年7月)開催に向けては、海外客の利用を見越したホテル建設が数年前から盛んに進められていました。しかし、オリンピック開催の約半年前に新型コロナウイルスの感染が拡大。以前から進行していたホテル建設は直ちにキャンセルできるはずもなく、先行き不透明な状況にあってもホテル数は増加の一途を辿りました。以下はその推移です。
種類 | 2019年1月部屋数(室) | 2021年10月部屋数(室) | 増減率 |
---|---|---|---|
ビジネスホテル | 696,862 | 820,697 | +17.7% |
シティホテル | 186,792 | 194,185 | +3.9% |
リゾートホテル | 114,883 | 125,954 | +9.6% |
旅館 | 241,864 | 241,498 | -0.2% |
合計 | 1,240,401 | 1,382,334 | +11.4% |
参照:HotelBank「日本全国ホテル展開状況(2020年1月現在)」・「日本全国ホテル展開状況(2021年10月現在)」
コロナ禍においても旅館以外はすべて部屋数が増えており、トータルでは1割を超える数値となっています。
新型コロナウイルスの5類への移行を受け、2024年以降は国として海外観光客の誘致を強化することになっており、更なるホテル数の増加が見込まれるかもしれません。そのため、引き続き人材不足の傾向は続くと予測されます。
ホテル業界はもともと離職率が高い
人材不足の2つ目の理由は、ホテル業界の離職率の高さです。以下の表に入職者数と離職者数の比較をまとめました。
区分 | 2020年度 | 2021年度 | ||
---|---|---|---|---|
入職者数(千人) | 離職者数(千人) | 入職者数(千人) | 離職者数(千人) | |
宿泊・飲食・サービス業 | 1,227.2 | 1,258.5 | 1,179.5 | 1,270.9 |
参照:厚生労働省「-令和3年雇用動向調査結果の概況-」
2020年、2021年ともに、入職者数よりも離職者数の数値のほうが大きく、ホテルが増えているにも関わらずホテル業界で働く人が減っていることがわかります。
コロナ禍における人材流出
人材不足の3つ目の理由は、コロナ禍における人材の流出です。
帝国データバンクによると、コロナ前の2019年度末と2022年度末において、ホテル・旅館などの宿泊業を営む企業の6割以上で従業員数が減少したとの報告があります。コロナ禍での営業規制や休業などで解雇を実行した主に非正規の社員が流出したまま需要の回復を迎えており、深刻な人材不足に直面しています。
参照:帝国データバンク『宿泊業の6割 人手「戻らず」コロナ禍で雇用減の影響残る 非正社員、企業の1割が減少幅「5割超」』
ホテル業界の人材が不足する主な原因
続いて、ホテル業界の人材が不足する主な原因をみていきましょう。
賃金の水準が低い
1つ目の理由として挙げられるのは、賃金水準の低さです。厚生労働省の令和4年度のレポートによると、「宿泊業、飲食サービス業」の平均月収は25万7,400円と、全16業界のなかで最も低い値となっています。
参照:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況(産業別)」
昨今の転職市場の活性化に伴い、「少しでも良い条件が得られる業界へ転職しよう」と考える人が多いことが、人材不足の大きな理由の一つだと考えられます。
有給取得実績の少なさ
2つ目の理由は、有給休暇取得実績の少なさです。厚生労働省の令和4年度のレポートによると、「宿泊業、飲食サービス」の年間平均有給休暇取得日数は6.6日と、賃金と同じく全16業界のなかで最も低い数値となっています。
参照:厚生労働省「令和4年就労条件総合調査 結果の概況(労働時間制度)」
特に小規模なホテルや旅館では、従業員一人に対する業務量が多く、自身が休んだ際に代役を立てるのが困難な実情があります。そもそも人手が足りていないなかで自身が休んでしまうと、宿泊客への適切なサービスの提供が困難になるだけでなく、一緒に働く仲間にも負担をかけてしまうと考え、有給休暇をスムーズに取得できない環境にあると考えられます。
拘束時間の長さと不規則な労働時間
3つ目の理由は、拘束時間の長さと不規則な労働時間です。
一般的な企業は朝から勤務が始まり夕方頃に勤務が終了するため就業時間が明確ですが、ホテル業界は24時間・365日営業していることが多く、従業員の拘束時間も長く、不規則になりがちです。そのため、結婚・出産などのライフイベントがあった場合、夜勤の対応が困難になり、離職に直結するケースも見受けられます。また、年齢を重ねるにつれ夜勤での働き方が身体に影響をおよぼし、健康面の観点から業務を継続するのが難しくなることもあるようです。
直接顧客と接するサービス業であるためリモートワークなどの柔軟な働き方も難しく、人材不足に悩むホテル業界としては大きな課題の一つになっています。
ホテルの人材不足に対応するには
では、ホテル業界の人材不足に対応するにはどういった施策が有効なのでしょうか。詳しくみていきましょう。
賃金や福利厚生の改善
1つ目の施策は、賃金や福利厚生といった諸条件の見直しです。
負担の大きい業務を担っているにもかかわらず賃金が低い、休みも取りづらい、といった状況は、人材採用の観点では大きなマイナス要素です。まずは業界水準以上の給与提示や有給休暇取得実績を目指すのが急務となります。IT化による業務の省力化、仕入れ先の見直し、人事・評価制度の抜本的な見直し、魅力的な福利厚生の導入など、従業員の待遇全体を改善する必要があります。
勤務形態の見直し
2つ目の施策は、勤務形態の見直しです。拘束時間の長さを改善し、適切なシフトを組むことで、勤務形態の見直しを図りましょう。
例えば、中抜け勤務と呼ばれる働き方は従業員にとって大きな負担となります。中抜け勤務とは、数時間の休憩を挟んだのちに勤務に復帰するものですが、数時間後には仕事が控えているためしっかりとリラックスするのが難しいという人も少なくありません。休憩中に突発的な業務が発生する可能性もあるでしょう。
中抜けではなく、その日の勤務を終えたら自宅に戻ってリフレッシュできるようにシフトを組むなど、勤務形態を見直すことが効果的です。
ITツールやロボットを活用した省力化
3つ目の施策は、ITツールやロボットを活用した省力化です。
例えば、受付などのフロント業務や予約管理、デイリーの売上チェック、従業員の勤怠管理などは、ITツールやロボットを導入することで自動化が叶い、従業員の業務削減につながります。業務量を減らすことで従業員の仕事に余裕を持たせられれば、有給休暇の取得促進にもつながります。
派遣スタッフの活用
4つ目の施策は、派遣スタッフの活用です。繁忙期に合わせてスポットで派遣スタッフを雇い、人材不足の解消を試みるのは有効な手段です。自社の業務を標準化・マニュアル化し、サービスの品質を落とすことなく提供するには、という観点で派遣スタッフに任せる業務を定義しましょう。
スポットで派遣スタッフを雇うのは、正社員採用に比べて難易度が低いとはいえ、全体的に人材不足が顕著なホテル業界においては容易ではありません。これまで紹介してきたさまざまな手法を実践したうえで、それでも人手が足りない場合の手段として認識しておきましょう。
まとめ
日本は国の政策として観光業に注力しており、外国からのインバウンド需要は経済を支える重要な要素の一つとなっています。そのようななかでホテル業界が担う役割は大きく、また顧客と接する機会が多い仕事であるため、直接的にやりがいを感じやすい仕事でもあります。
一方、労働環境はほかの産業と比較して厳しく、自身の生活などを考えると中長期で働き続けるのは難しい印象を持ってしまうのも事実です。賃金や福利厚生の改善、勤務形態・業務の見直し、ITやロボットによる省力化に取り組み、人材採用の観点から魅力を適切に発信するための改革が必要です。
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